CTAFTSMAN.03
牛のストレスを軽減し、
美味しい牛乳を。
置戸町北光の酪農農家
野里 智也 さん
曽祖父から続く酪農の家系で、私も18歳から家業の酪農を始めました。牛舎での仕事から畑での牧草の生産まで、たくさんの仕事がありますが、父に叱られながら身につけていきました。もともとは牛一頭一頭を牛舎の中でつないで管理する「つなぎ」の方法で生産していましたが、一年前からは牛舎で牛が自由に活動しストレスを軽減できる、「フリーストール式」に転換しました。
生産の方式を変更したのには、いくつかの背景がありますが、特に重要なのはITを活かした生産の「合理化と効率化」です。より良い生乳を安定して生産するためには、良い餌を与え、ストレスのない環境で健康に牛を育てることが重要ですが、牛舎の中で自由に動き回るこの様式はストレスを大幅に減らせるものの、個々の牛の健康状態をきちんと把握することがとても大変でした。
現在はITのシステムにより、牛の健康状態をデータ化し管理することができます。その他にも搾乳や餌やりなど、ロボットを導入することで作業を効率化することができ、空いた時間を他のことに使うことができるようになりました。何より牛が喜び、健康な状態で生乳を生産できるようになりました。
美味しい牛乳を生産するためには、牛をストレスなく、健康な状態で育てていくことはもちろん、与える餌も重要です。特に、牧草は刈り取りの時期が重要で、一ヶ月牧草の収穫時期が変わるだけで最終的な餌の品質は大きく変わってしまいます。刈り取りの時期をずらしながらでも良い餌を与えられるよう、生産する牧草の種類を変え、最も良い刈り取りのタイミングをコントロールするなどの工夫をしています。
また、最近ではサイレージと言われる、牧草を乳酸発酵させた餌も与えてますが、サイレージ生産においては、しっかりと「踏み込み」を行うことで、できる限り空気の流入を抑え、不純物が入らない中でしっかりと乳酸発酵させるなど、注意深く生産しています。
酪農は一般的にとても重労働だと言われており、実際に決して楽な仕事ではありませんが、機械化によってその内容は変化してきました。以前は、牛の健康状態を把握するためには、一頭一頭目視をして管理する必要があり、搾乳や餌やりも全て手作業と、行き届いた管理をしていくためには多くの時間と集中力が必要で、時間がいくらあっても足りないといった現状でした。
人手による作業から機械化されたことで、省力化が図れた一方でより俯瞰的に牛の状態を管理したり、今まで行き届かなかった生産の改善を進めることができたことによって、牛乳の品質を高めるができています。
機械に任せるところは任せ、機械にはできない仕事を手仕事として手をかけることで、より良い生産ができるようになります。実際に新しい牛舎においても、ロボットの搾乳と相性の悪い牛については手作業で搾乳し、機械による管理と手作業で補完しています。
牛は本当に繊細な生き物なので、温度の違いだけでも大きなストレスになることもあります。できる限り単純な作業は機械化し、本来考え手間をかけるべきところに時間かけることで生乳自体の品質が向上します。
これからも、良質な飼料を生産し、いかに牛がストレスなく過ごせるかを考え、手間をかけることが私の仕事と思っていますし、それが牛乳の美味しさにつながると信じています。